幾度とない断捨離を経て、捨てないことに決まった本のこと。
個人的に、世界最速の日本語を使うと思っている人の作品。
この本は安心できない。
とにかくすばらしく日本語が早い。
すごいスピードで物語が再生される。
テンションが上がる、アドレナリンが出る、時が流れる、夜が終わる。
好みに合うなら、絶対に一気に読んでしまうタイプなので、安心はできない。
夜は短い。(特に平日は)
したがって、安心はできない。
同じくらい速い本に、「ベルカ、吠えないのか?」って一冊もある。
これもとても速い。
短編集の「gift」も、速くはないけどすごく好き。
"こんなめにきみを会わせる人間は、ぼくのほかにはありはしないよ"
まるでスピッツの8823の一節のような短歌を読む歌人が作者のエッセイ。
でも、諳んじて言えるような短歌は特にない。
ベッドで菓子パンを食べるのが好きで、カップラーメンのフタをきちんと剥がすのが億劫で、自意識が強すぎて生きることに無器用。
安心する。
世の中の角度からズレているのね、と思う。
ある雑誌の「存在感がある人、影が薄い人」という特集で「影が薄い人代表」としての寄稿を求められたというエピソード。
もうたまらない。
下向きに深い安心を感じる。
「テンペスト」が仲間由紀恵主演で映画化されてたりする作者。
いいなぁ。
「ある日気がつくと、僕は幼稚園に捨てられていた。」で始まる本編。
ちなみに本書もエッセイであってフィクションではない。
安心する。
ずいぶんなエピソードだ。
誕生日を恐れ、しばしば失神し、日課として仏壇を拝んでは非現実味の水位を下げていたという少年時代の話。
あー、これはこじれているな、と思う。
むやみに安心する。
作者は翻訳家、らしい。
かの人が手掛けた翻訳物は、何一つ読んだことがない。
ただ、この本だけを読んでいる。
子どもの頃の最大の不安が、「今自分は人間のつもりで振舞っているが、実はそれは全て幻で。自分は一匹の猿でしかなく、仲間の猿に奇異の瞳で見られながら、岩に向かいテレビの幻を見ているのではないか」的な不安であったとのこと。
安心する。
分かるー、と思う。
眠れない夜には、ひとり尻取りをする、という記述がある。
この脳内競技の発展に伴い、脳内には競技委員会が発足し、"ん"事件を巡っての容認派と厳格派が対立し、あまつさえ各派閥内で穏健派と過激派への分派が進む。
私はそこまでじゃないな、と思う。
とても安心する。
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